聖剣伝説3 25thアニバーサリーオーケストラコンサートがとても良かった

去年はコンサートのオンライン視聴に金を払うという体験をせず、サービスデザイナーとしてこれはアカンだろと反省して今年はちょくちょく有料のライブ視聴に手を出している。それで先日は聖剣伝説3のオーケストラがあるというので見てみた。
チケット買ったのが本番1時間前。これはオンライン視聴ならではの体験であり、自分は予約をするという行為が苦手なので本当にありがたい。

過去、ドラクエ以外のゲーム音楽オーケストラコンサートにアタリを感じた事が少なく、正直のところ不安はあったが、予想を超えてめちゃくちゃ良かった。映像コンテンツ化した方がええんちゃうかと思う出来。アーカイブ期間が過ぎたら聴けなくなるの、文化的に勿体ないと感じる。

楽曲の良さは25年の歴史の中ですでに語り尽くされているが、今回特に光っていたのが選曲と、そしてアレンジの良さ。

せっかくのオーケストラなのだから大胆にアレンジを…というノリでは無くて、原曲を素直に再現する事に焦点が当たっており、ファンとしては「そうそうこれが聴きたかった」と膝を打つものだった。
ゴリゴリに編曲されたゲーム音楽オケコンもそれはそれでひとつの魅力なのだろうが、自分にはこれくらいのアレンジがベストだと感じる。eplusの視聴プレイヤーについてたコメント欄もTwitterの感想もそれなりに見たがおおよそ絶賛ムードで、似た感覚の人は多い気がする。

いぶし銀のアレンジが返って敢えて今回変更したメロディに耳を向けさせて「おっ」となる。序盤だとWhiz Kidという曲のピッコロによるオブリガードが大胆にアレンジされていて、こういった変化に気づくのが楽しい。
本職アレンジャーの立場だとゴリゴリに再構築したくなるものなのかも知れないが、原曲リスペクトというだけじゃなく、ファン心理にも届く宮野幸子さんという方の仕事。あっぱれ。

ベーシストである性で気を抜くとすぐ低音楽器にばかり耳が行ってしまう人間だが、今回の編曲では全編通じて木管、特にフルートとオーボエにおいしいところが多く、普段あまり意識しない楽器に目と耳を持っていかれる体験は自分の音楽的価値観を広げてくれているようで、嬉しかった。
弦楽器がグイグイ引っ張っていくドラクエのオーケストラと対比して聴くのもおもしろい。

感嘆した箇所が多かった今回のコンサート、敢えて最も印象に残った事をひとつ選ぶとすると、Little Sweet CafeのAパートからBパートへの繋ぎの1小節、これをヴァイオリンのピッチカートで表現した所はぞわっとした。聴いてみれば「それ以外ありえない」と思わせるハマり具合なのだが、初回聴いた時は何かを発見した気分になった(これを書いている今、たぶん5週目くらい聴いている)。

相当どうでもいいが、この1小節、カメラが完璧にヴァイオリンを射抜いていてあまりの完璧さに神業かと思いかけたが、ここで「あ、たぶんこれ録画やな」と気付いてしまった。
制作やってるとこういう事に気付いてしまうので残念だ。

あと演出についてもう一言だけ言わせてもらうと、ゲーム音楽のコンサートでありがちな「ゲーム映像」と「アニメ声声優による案内」、これはもうちょっと控え目にしてくれんかなぁとは思う。これらの要素が強いと妻や友達を誘いづらい。
…なんだが、ファンはこういう要素を望んでいるのも分かる(コメント欄から察した)ので、まぁ難しい話だ。

さて今回はどうやら生配信では無かったようなのだが、であればこのオンライン配信形式、「カメラ選択」ができたらもっとコンテンツとして魅力が上がるなぁという感想を持つ。これはSlipknotがDisesterpiecesというDVD作品で2002年(19年前!)にやっていた事だったりする。
自分だったら1周目は本編を見た後、2周目にコントラバスパートをガン見したい。

…と言いつつ、演者の立場に立つとたまったもんじゃないよなぁこれ。一瞬でも気が抜けない。頭ポリポリかいたりボケーっとできない。製作費もけっこう上がるだろうしなぁ。
まぁ過ぎた願いかもしれないが、そのうちオンライン視聴でマルチカメラやり始めるところはあるだろうなぁ。というか、もうどっかがやってる気がする。

という事でちょくちょくオンライン視聴を何度か経験して思うが、金払ってリアルタイムに見るのがやはり良いと感じる。
「世界最速で見ている」という感覚がもたらす緊張感が結構気持ちよく、演者に真摯に向き合っているという感覚を強く持てる。アーカイブで見たら初見でもこの感覚は味わえないと考えると(やはりアーカイブは「アーカイブの体験」になる)、オンライン視聴であっても開始時間には席について(仕事せずに)しっかり聴くという体験を尊重したい。そういう観点だとリアルのコンサートに行くのと気分的には変わらない部分も多い。