傑作・フロントミッション(SFC)のレビュー

1995年発売。ファンタジーが主流の当時の日本RPG界にあって、突然スクウェアから投入されたハードボイルドシミュレーションRPG。
2090年、太平洋の架空の島で起こった紛争がテーマ。それを「善と悪」という二元論に収束させないストーリー構成と、純粋に喜びきれないエンディングという、まさに自分のツボを突きまくった作品。自分の史上RPGのトップ5に入る気がする。

あらすじ

太平洋に隆起したハフマン島には、地下資源に目を付けたOCUとUSN(それぞれアジアとアメリカ)の軍が駐在している。物語の20年前に一度両者間で紛争が起こっている(第1次ハフマン紛争)。
2090年、USNの軍用工場が襲撃されたという事件を境に、第2次ハフマン紛争が勃発。ここから物語は始まる…。と、こんな感じ。

世界観

2090年となるともちろん軍用兵器は進歩しており、このゲームではヴァンツァーという人型軍用兵器が主役となっている。一人が一体に搭乗して操作するのはまぁエヴァンゲリオンみたいなもの。ただし一般兵器なので、量産されている点で全然違う。で、そのヴァンツァーを制御する役目を負うのが「コンピュータ」なんだが、これがストーリー上かなり重要なポイント。なんでかというと、この紛争自体が人間の脳を兵器制御コンピュータとして利用するためのテストケースだったという超ハードボイルドな設定だからだ。

無理やりにストーリーを圧縮すると

軍上部からの命令で恋人と敵工場視察中、恋人拉致→主人公やさぐれ中に軍から傭兵部隊にスカウト→軍の命令をテキパキとこなす→なんかいろいろとおかしいぞ→げ、敵国と思ってたのに自国とグルになって兵器実験やってたって?→やってられん、軍やめる→テロリスト扱いかいな→恋人の脳をコンピュータにされてるみたい→もうこの紛争がくだらん。俺が止める→敵はつきとめた、倒す

恋人が殺されてしかも脳をコンピュータとして利用される
という設定は例えこれが映画であってもめちゃくちゃ重い。重すぎる。初プレイ時は小学生ながらに寒気を覚えた。
よくこんなストーリーにOK出たなまじで。

システム面はやや甘い気もするが

大傑作だと思う本作だが、主にシステム面では突っ込みどころはある。

  • 小学生が何も考えなくてもあっさりクリアできてしまう難易度設定。
  • パンツァーのカスタマイズ性は一見高いようでかなり低い。機能性を考えると、結局は近距離射撃、遠距離射撃、格闘の3タイプに落ち着いてしまうから。
  • ラストまで進めた後の極端な自由度の低さ(SRPGの宿命)。

ゲームであることを考えると致命的なものも含まれるが、そんな欠点もストーリーと演出(後述)が、本当に全て吹き飛ばしてくれる。

キャラクターデザインがいい

仲間が20人。その半数くらいはパーティに入った途端に空気になる(仲間が多いRPGの宿命)が、それでもしっかり個性を貫いている(ようにプレイヤーは感じる)。これは天野画伯の成せる業のように思う。
仲間に入る時点でしっかりとキャラ毎の信念が描かれているのも大きい。このあたりは漫画で言うとジョジョの表現方法に相当する気がする。
敵キャラのしっかり(絵的にもストーリー的にも)描き分けられていて見事。
物語を重層化たらしめている大きな要因だと思う。

で、このゲームのいいところ

この作品のストーリーを一概に結論付けられないのは、戦争(紛争)という大テーマの下、多くのサブテーマが内包されており、物語が重層化していることが大きい。
そもそもそれらをサブテーマとして捉えるかどうかは個人の判断に依るとは言っても、ざっと思いつくものを書いてみる。

  • 軍需という側面が強調された戦争のふがいなさ
  • 人の脳をコンピュータとするという倫理観の破綻
  • しかもその実験台が自分の恋人という非条理
  • 紛争は鎮静させたが、恋人は戻らないという悲劇的的恋愛

従来のゲームらしくない、こんな重いテーマが綯交ぜにして突き付けられる。
そしてストーリーを進めるごとに鬱積していくやり場の無い感情を一手に引き受ける演出として、エンディングがもう完璧な出来なのである。

エンディングと、音楽

こんな重いテーマを綺麗さっぱり洗い流すようなエンディングは用意されていない。
ただこの戦争に関わった者たちが「それぞれに傷を負った」ことが描かれるのみである。
それはサカタの「家族か…疲れた…」という言葉が端的に表している。

そして対象的にテキストのみで表現される、紛争後の大国間の否認合戦。
戦争に関わったロイドたち「個人の感情」というレベルと、「国としてのメンツ」というレベルの温度差が、戦争のやり切れなさなんだろうと思う。

自分はもちろん戦争を経験したことは無いけど、多分「勝っても負けても、こんな気持ちになるんじゃないか」という感覚が、結構なリアリティで迫ってくる。

そしてそのバックで流れる曲「Within living memory」。
この作品が伝えたいことが、作曲者にもしっかりと共有できている、本当に「ゲーム音楽」の鏡であると思う。作曲者の松枝賀子に敬意を抱く。
主人公ロイドが、脳コンピュータとなってしまった彼女を爆破するシーンでこの曲は最高潮を迎えるが、ここは完全に泣いてしまう。
ちなみに今ニコニコで動画を見直して、本当に泣いてしまった。

あと、一部では蛇足とも言われるスタッフロール後のプロローグ。自分は肯定派。
なぜか。
「仲間」が、様々なものを奪っていた戦争の中で、彼らが唯一手にした「救い」だからだ。
一度散会した仲間たちが再集結するこのシーンは、どんな逆境にあっても「救い」を見つけて生きていく人間のたくましさ(多分それはフロントミッションというゲームが唯一我々に残した明確な解答である)を表現する上で、どうしてもこのシーンは必要だと思う。
このシーンがあって初めてこのゲームが「戦争よくないよね」から「人間の生きる強さ」というテーマに昇華されるのではないか。

良いところも悪いところも含め、ストーリー、キャラクター、グラフィック、インターフェースデザイン、戦闘システム、ヴァンツァーカスタマイズシステム、そして音楽、あらゆる要素が一貫したコンセプトでまとめあげられている、かなり稀に見る名作だと思う。星5つ。