UX DAYS TOKYO 2019に行ってきた。こういうカンファレンスはここ2年くらい避けてきたが、久し振りに行ってみると意外といいもんだなと思った。
このイベントも大型UX系カンファレンスの例に漏れずメタ原則論のプレゼンテーションではある。なので「明日から使える実践ノウハウ」を期待した人には抽象論に聞こえたかもしれない。
ただ、これでも一応UXデザインだのサービスデザインの手法、プロセス、メトリクスの議論を仕事仲間と日々重ねる身であり、自分の考えもそれなりに持ってはいる。とした時に別の視点の語りを聞くと、自分の考えを客観的に捉え直すことができるなという感覚があった。答えではなく視点を追加してもらった、という感じ。
以下、整理と備忘を兼ねて粗いサマリーを残しておく。
ただミスを犯した。今回は英語学習のためとイキってしまい、同時通訳のトランシーバーを借りたのに使わないという暴挙に出てみたので、うろ理解である。
あとスライドの写真を撮らないという意味のないプライドがあるのでリファレンスがスマホで書いたメモだけしかない。
その上、自分にとって新しいと感じなかったことはメモしていないので、どう考えても自分向けでしかない。ご容赦。
あと英語についてどうでもいい話を加えておくと、登壇者が相当にゆっくり喋っていたので日本人の英語スキルを鑑みた運営からの依頼なのではという気がする。ネイティブの同僚は「英会話の先生みたいだ」と言っていた。俺にはちょうど良かったけど。
1. 継続的ユーザーオンボーディング
スピーカーはKrystal Higginsさん。GoogleのシニアUXデザイナーとのこと。
オンボーディングはアプリを開いた直後の数画面を指すのではなく、サービスとユーザーの距離を近くに保つためのマナーのことというのが自分にとってのキーメッセージ。なお、俺がそう意訳しているだけで本人がそう言っていたわけではない。今日のセッションの中では一番実務に活かしやすい領域だった。
オンボーディングの提供機会を「イベント」と「メソッド」に分解。
イベント:オンボーディングを発生させるトリガーのこと。
- Initial:最初にサービスにランディングした時。コーチマークなどが該当。これが一般的なオンボーディングの理解。
- Familiarize:機能が拡充した時。
- Guide:Continued Discoveriesというメモがあったが忘れた。
- Return from lapse:長期間離脱したユーザーが復活した時。
メソッド:オンボードのさせ方のこと。雑に言うとUI。
- Defaults:サービスの標準UIのコンテキストで説明する。
- Inline:連続するコンテンツ配列の中に説明を紛れ込ませる。
- Reactive:ユーザーアクションへのリアクションとして説明する。
- Proactive:アクションさせる前に説明する。
- On-demand:会話で説明する。
まぁ、こういう分類を直ちに世の真理だと受け止める必要はなく、自分なりの整理をするための参考情報として受け止めておくくらいでよい。
あと、へぇと思ったTipsとしてデフォルトの設定を変更する人は5%以下というのがあった。俺は歯車アイコンがあると条件反射で押してしまうタイプの人間なのでその感覚がわからない。
Krystalさんがあまりにオンボーディングという単語を連発するので、確かにサービスにとって重要な視点であり体験だと思えてくる。これは今まで俺がサービスデザインを分析する視点がひとつ抜けていたということを意味する。またデザインを見る視点が変わった気がする。有益。
2. 音声ユーザーインターフェースデザイン: 旧来の問題に対する新しいソリューション
スピーカーはCheryl Platzさん。ゲイツ財団の初となるUXデザイナーであり、デザインのコーチングを行うIdeaplatz, LLCのオーナーでもあるそう。Amazon Echo Lookのインタラクションデザインを手がけたらしいが、残念なことに日本未発売。
錚々たる経歴をお持ちの彼女のせっかくのプレゼンだったのだが。
今は自分にVUI分野の勘が全く無いのと、プレゼン内容がVUI自体の啓蒙に近かったためか、やや身を乗り出しづらいお話だったのが正直なところ。
もちろん彼女に非はなく、俺の問題である。
メモをかいつまんで乗せておく。
- ビジュアルUIでは従来の顧客にアプローチできない、みたいな時に有効
- 音声デザインなんだけど、ビジュアルシナリオ作る
- 実施にあたっては「コンセプトフェーズ」と「デザインフェーズ」を定義
- コンセプトフェーズ:ストーリボード、シナリオメイク、インフォメーションアーキテクチャ、サンプル会話定義、intents
- デザインフェーズ:Samples、Prompt (他にもプロセスがあったがメモしていなかった)
インフォメーションアーキテクチャというワードが出てきた時はちょっと運命的なものを感じた(どうでもいいが自分は元バリバリのIAである)。
3. サービスデザインで現代的な体験の創出を
スピーカーはNick Remisさん。Adaptive Pathを経てコレクティブヘルスという会社のリードデザイナー。
キーワードはOrchestration(オーケストレーション)。これに尽きる。
自分のボス(メキシコ人)が最近よく発する単語でもあり、デザインを局所解の集合から抜け出させようという思想だと解釈している。
それがキーワードになる理由は、サービスと呼ばれる実態の無いものが、体験の集合としか定義し得ない概念だからだと思われる。
Nickさんが例に出したのは「レストラン」。
システム的に解釈では「お金を払って食事をする」という共通項がありながらも、ファストフード、カフェテリア、ホテルのレストラン、寿司屋…はそれぞれサービスとしての価値が異なる。これがオーケストレーションの差が生み出す体験差であると。
そういう視点なので、サービスデザインの範疇には、スタッフのエクスペリエンスも含まれるという解釈も納得度が高い。
その文脈に応じて、サービスデザイナーの役割が、リサーチャー、UXデザイナー、ビジュアルデザイナーなど様々なデザイン領域を繋げることだと紹介されていた。
また実践向きの情報として、
- コア原則:ヒューマンセンタードである、共創である、タンジブルである、etc.
- マインドセット:システムシンキングである、etc.
- メソッド:エコシステムマッピング、ジャーニーマッピング、サービスブループリント、etc
などが紹介されていた。のだが、「こういうのはまず自分の頭で考えるもんだ」と思ってメモをろくにとっていなかった。後で後悔するかもしれない。
サービスデザインプロセスの最初にデーンと居座っていたのが「エコシステムマップの定義」だった。プロジェクトで数度作ったことがあるものの、イマイチ価値を理解できていなかったので最近無視していたのだが、再解釈をすべきかもしれない。
以下雜感
サービスデザインというのは登壇者自身が「曖昧な概念」と評する以上に、日本マーケットにおけるポジションはまだ存在していないに等しい。というのも、事業者側にサービスデザインを必要とする動きがまだ見えないからだ。そんな相談聞いたことがない。あるところにはあるのかもしれんが。この辺りは北欧では盛んで、国が主導で進めているという話を聞く。
日本では、クライアントの課題解決ロジックを組み立てる中で「最も有効な戦術がサービスデザインである」と証明できる手法を、まず我々が持たなければならない。少なくとも当面は。
もう一つ。これはサービスデザインの文脈とはやや異なるが、今、自分の名刺に肩書として入っているUXストラテジストの価値とは、オーケストレーションを設計することなのではないかとヒントを得た気がする。
4. リサーチで最初の質問するべきこと
Erika Hallさん。Mule Design Studioの共同設立者。著書 Just Enough Research はUXリサーチのバイブルなんだそうだ。バイブルと聞くと読まなあかんかなという気がしてくる。
UXデザインで目指すべきものはGood Designである以上にSuccessful Designという視点はハッとさせられるものがあった。
そしてSuccessful Designのために必要なものがリサーチである、と。
こういうとおこがましい感があるが、自分が普段リサーチする時の原則に近しい内容だったためメモは薄め。
- 何を知る必要があるのか、という問いを外してはいけない
- リサーチの前にゴール定義が必要 (リサーチに限った話ではないと思われる)
- リサーチはリスクを減らす
- リサーチによってリアリティベースの意思決定ができる
- リサーチをこちら側のコンテキストに巻き込んではだめ
プレゼンでおもしろかったのが、「もしあなたが別の惑星のエイリアンだったとして、地球を救うためにどういうリサーチをするか」という例えで説明していたのはテクニックとして参考になった。
なお、以前この人の講演を聞いたことがある先輩によると、今回はリサーチ初心者向けな印象だったとのこと。
5. UX設計での行動経済学の重要性と理解
Jerome Ribotさん。エスノグラフィーや行動経済学を専門とするCoglode社の共同創業者とのこと。クライアントが豪華。BCG、Spotify、Facebook、Googleなど。すげ。
行動と経済の視点がどうマッシュアップされるのかと期待したが、経済の要素は薄め…というかほとんど無かった。
恐らく彼がリサーチを重ねる中で見出したユーザーの行動特性を3つの原則として紹介する、という内容。
- Scarcity : 欠乏がさらなる欲望を生む。日本人が好きな限定商品とかもこの理屈。
- Surprise Effect : 予期せぬサプライズがサービスをより好意的に見せる。
- Curiosity Effect : 好奇心。情報をあえてクローズにすることで期待値を操作する。
それぞれに3つくらい事例が紹介されていたが、割愛。
Jeromeさんはもう見るからにむっちゃええ奴やん感が滲みでていたのはいいが、ステージ上をうろうろしながら喋るものだから、行動経済学よりもあなたの行動の方がおもろいわと思った。
6. ストーリー(ナラティブ)に隠れる数値を探そう : メトリクスの活用方法
スピーカーはKate Rutterさん。Adaptive Pathのシニアプラクティショナーやコンサルティングリードを経て、現在はカリフォルニア美術大学の教員とのこと。(プラクティショナーってなんだ?)
彼女のメッセージはUXを数字で計測することの重要性。
プレゼン内容が包括的で、メインであるメトリクスの議題に入るまでに、外堀から順に埋めていっている論旨展開だった。今日のプレゼンの中では、最も座学と実践のバランスがとれた内容だったような。
3つの問い
UXデザインによって生み出そうとしているものを3つの視点で体系化する。そしてそのそれぞれに適切な「言語」がある。
- 何を達成しようとしているのか = words
- これはどんなものか = pictures
- それはどんな影響をもつか = numbers
今日のプレゼンは特に3.にフォーカスしたものだが、Kateさん、恐らく1.にも2.にも一言ある方のように思われた。
数字を言語として持つことの価値
- ビジネスステークホルダーと喋れる
- プロダクトチームとコラボできる
- メジャラブルなプロダクトを作れる
- もう一個あったがメモ忘れ
リサーチ手法の体系
リサーチ手法の分類を紹介。
Quantitative | Qualitative | |
---|---|---|
Generative | Survey | Interviews, Context Inquiry |
Evaluate | Metrics & Analytics | Usability Testing |
それぞれの意味は以下。
- Quantitative (定量) – What : 何が起きているのかを知る
- Qualitative (定性) – Why : なぜ起きているのかを知る
- Generative – 新しいアイデアのため
- Evaluative – (今あるものの)評価や検証のため
今日のプレゼンのフォーカスは、左下のQuantitative & Evaluativeの欄。つまり定量的に評価するための手法。
定量・定性の分類はしょっちゅう使うが、Generative・Evaluativeの分類は聞いたことがあるもののプロジェクトで活用したことが無い。なるへそ。ちゃんとしたリサーチャーには当たり前なのかしら?
メトリクスのフレームワークが3例
- PULSE metrics – Page views, Uptime, Latency, Seven day active user, Earnings
- PIRATE metrics – Acquisition, Activation, Retention, Referral, Revenue
- HEART metrics – Happiness, Engagement, Adoption, Retention, Task success
まぁこういうのはヒントくらいに捉えて、自分で考えて作っていくものだと思っているので参考程度に。
2つ目のPIRATE metricsの由来は、頭文字をとったAARRRが海賊の叫び声だからだそうだ。センス勝ちかよ。
メトリクスに求められる条件
- Clear & Specific – 明快で特定しやすい
- Normalize – ノーライズされている(比較できるということ)
- Comparable – 定期的(daily, weekly, monthly)に観測できること。
- Actionable – 施策化しやすい
メトリクスの評価
メトリクスの良さを5段階で評価するモデルが紹介されていた。上記のメトリクスに求められる条件を満たすものが良い指標である、ということ。割愛。
激推し書籍
プレゼンで激推しされていた書籍がLean Analytics。
Kindle版無いのかぁ。
今日の主題は3つ目の言語であるNumbersだが、残りの2つ、Words, Picturesにも、フレームワークがあり軽く紹介。
Words
With xxxxx, yyyyy can zzzzz.
何によって、誰が、何をできるようになるのか。
このように、UXデザインプロセスで実現しようとするものを言葉で規定する。
Pictures
まだ見ぬものを見るために必要なもの。ワークショップでよく描くアイデアスケッチもこれ。
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