リアリズムとしてのサービスデザイン

サービスデザイナーとしてコンサルに転職して1年経つ中で、思った事を書いてみる。

前職に比べて自分の業務レベルでやっている事自体は大きく変わらず、これから作るべきものの仮説をたて、顧客候補の意見を聞き、確からしくしていくというプロセスのオーケストレーションをやっている。ただ、やってる事は変わらないがシチュエーションは大きく変わった。クライアントの投資意思決定「前」に駆り出される事が多くなった。「作るべきものを良くする」から「そもそもこれを作る意義ってあるんだっけ」へと、自分が関わるアジェンダがいわゆる前段工程になり、ここでの討議次第でクライアントが億円レベルの投資するかの判断が下る現場に居合わせる事のダイナミズムは確かにおもしろい。この変化はコンサルに来たならではと感じる。

もう一つ大きな変化があり、それはコラボする人種の変化である。ビジネスコンサルと呼ばれる人と協業する機会が増えた。増えたというか、全てのプロジェクトがそうなった。まぁコンサルに転職したので当たり前である。この1年はこのコンサルという生態系を興味深く観察する期間だった。これは自分にとって非常に有意義だったと言える。

まず根本的に、ビジネスコンサルとサービスデザイナーがやりたい事は全く一緒であるという発見が大きい。
クライアントのアセットを活かして新たな収益源を作ろうとするゴールは共通であり(なお顧客や世の中のためになる、という観点は不問の前提条件である)、得意領域が異なるから違うラベルが貼られているにすぎない。当然、依頼者からするとその差はどうでもいい。

さてここでは、サービスデザイナーとコンサルはもっと仲良くなるべき、と言いたい。
ことサービスデザインと呼び始めるとデザイン業界の専売特許のように論じられる気配を感じるが、我々サービスデザイナーはコンサルからもっと理解されるべきだし、コンサルをもっと理解する努力が必要だと感じる。

デザイン文脈に身に置いていると、ビジネスコンサルは「やり方が古い」「ユーザー視点が無い」「過去のデータしか見ていない」と揶揄される現場を見かける。悲しいかな、デザイナーの中には歴史的にコンサルに対して敵意を持つ人が一定数いる。そしてカウンターカルチャーとしてデザインシンキングという概念を生み出した(と自分は解釈している)。

正直、自分も前職まではちょっとそういうところがあったが、この1年で考えが変わった。両者でアプローチが違うのは事実だが、相手は排他すべきものではなく融合すべき対象である。
膨大な数の競合を調べ尽くし、ひたすら数字による収益性の検証を行うコンサルの行いは、無視できない金額の投資を行おうかどうかと悩むクライアント企業にとって必要不可欠な情報を提供している。コンサルがやっている事はデザイナーではできないという意味でまず尊重すべきだ。

Future Castingというアプローチに代表されるように、我々デザイナーへの期待値は「未来志向」「ユーザー視点」と評される。が、同時に理想論者として暴走するリスクも心に留めておく必要がある。
「ありもしない未来を妄想しできもしないサービスをイラスト化して嬉しげにプレゼンする」「ユーザーにウケる事は分かったが儲ける手段が皆無」「膨大な時間をかけて企画したが実は同じサービスやってる他社がいた」…、いわゆるデザインシンキング文脈だけで結論を出そうとすると往々にしてそうなりがちで、このような結論だけで日本の大企業から投資を引っ張り出せると思ったら大間違いだ。
こういう場合、コンサルが提供する情報はプロジェクトにリアリズムとしての側面をもたらすという意味で極めて有効である。事実、デザインチームとコンサルチームのダブルスで臨んだとあるクライアント役員との投資討議で、あらゆる質疑に応答できて話がトントン拍子に進んだという経験がある。あれはデザイナーだけでもコンサルだけでも無理だった。相手はシングルだったが。

さて、「現実と理想の両面から新事業の仮説を検証しましたよ」と断じるためにとれるアプローチは2種類あり。
ひとつは「コンサル主導+デザイナーによる補強」とでも呼ぶべき、マーケットや収益面での検討における足りないピースとして顧客視点による検証役でデザイナーが情報補強するケース。
もうひとつは逆で「デザイナー主導+コンサルによる補強」として、ゼロイチの仮説立てからデザインプロセスを十二分に執り行い、この市場性や投資意義について主に数値による補強をコンサルがやるケース。

自分はこの1年で両方のプロジェクトを経験できただけでなく、両方ともわりと評判の良いプロジェクトになった。むちゃくちゃラッキーだ。

本来論で言うとアプローチを2種に分けている事自体がナンセンスとも言える。今の我々の(営業体制も含む)アセットでは現実問題としてこうならざるを得ないが、本来はこれらのアプローチはもっと不可分なものとして取り扱うべきだ。

そもそも、「サービスをデザインする」という行為には「顧客からウケるものである」事を保証すると同時に「少なくとも持続可能な程度に儲けるものである」事の保証も含まれているはずであり、デザイン文脈で話をするとなぜか前者にフォーカスしがちだが、後者の収益性にも興味深いアジェンダが多く詰まっている。サービスデザイナーを名乗るならそこにも口出しができるべきだと感じる。

がんばろ。