バリバリの武闘派(?)インフォメーションアーキテクト(IA)としてキャリアを積んできましたが、最近、肩書が変わりました。私が見るチームがIA以外の領域にも広がった事で、一応リーダーとしてIAより広いっぽい名前の方が良いかなぁと思ったからです。
で、1年前まであれだけ嫌いだった「UXなんちゃら」という肩書にジョブチェンジしてしまいました。なぜ嫌いだったかというと、理系出身からすると言葉が一意に定義されずに議論される事に強い抵抗があったからです。が、今はどうでもよくなってます。「議論されているうちが華」という側面もあるかと考え直したからです。
とうとう自分の肩書にUXと付いてしまったので、UXデザインという言葉にも一言なくてはならんであろうという勝手な使命感から、払拭されない疑問をここで呈しておきます。
なお、今回は私の主戦場であるウェブサイトやアプリデザイン領域を対象にしています。サービスデザインやプロダクトデザインという文脈ではまた異なった議論になるのかもしれません。
定義としてのUX
問いの前に、復習も兼ねて定義を見てみますと、
ユーザーエクスペリエンスとは、(中略)製品、システム、サービスを使用した、および/または、使用を予期したことに起因する人の知覚(認知)や反応
と、ISO 9241-210では定義されているようです。Wikipediaより。
従ってUXデザインとは「製品、システム、サービスを使用した、および/または、使用を予期したことに起因する人の知覚(認知)や反応」の向上にコミットする行為を指すものと考えて差し支えなさそうです。
世で語られるUXデザインのプロセス
UXデザインに関する記事を読み漁ったり、UXという単語が頻出するプロジェクトにいたりした経験から、現場ではこのような文脈で語られているように見えます。
- まずはリサーチ!エスノグラフィ!デプスインタビュー!ユーザーテスト!
- そして3つのレイヤーのカスタマージャーニーで可視化を!
- サービスブループリントに落とし込んで
- 適切な情報設計を行うべし!
- UIデザインへ結実!
- モーションデザインして実装者にオリエン!
- ライティングは情報設計プロセス?デザインプロセス?
- PDCAは計画もいいけど実行を!
- ステークホルダーを巻き込んで邁進するのも大事!
勢いで書いたのでサービスデザインの文脈も入ってるような気がしますが。
言っておきたいこと
エンジニアリング視点が抜けてることが多すぎないか?
と思ったりします。
実際世の中がどう捉えらているのか、「UXデザイナー なにをする」で検索上位ヒットのウェブサイトから、UXデザイナーの領域を伺ってみました。
- 例えば、かの有名なWebクリエイターズボックスでは「UXデザイナーの仕事内容」として挙げられているのは「調査、ユーザーテスト / ワイヤーフレーム、プロトタイピング / デザイン / プレゼンテーション」となっています。
- 何ができれば『優秀なUXデザイナー』なのか?UX Sketch Vol.3 | Recruit Media Technology Lab (Recruit MTL)という記事でも出てくるのはUIデザイン、情報設計、リサーチ、ファシリテーション、というキーワードです。
- UXデザイナーの仕事内容がわかる職種図鑑 | レバテッククリエイターでは、「クリックした後に表れる画面やシステムの反応なども考慮したデザインが重要です」とあります。システム反応についての言及は惜しい気もしますが、結局示されているのは(グラフィックorUI)デザイン領域です。
やっぱり「リサーチ~企画・計画~情報設計~デザイン」あたりで示される、プロジェクトの上流工程をモロにイメージされていることが多いように見えます。
UXデザインの「デザイン」という部分に、市場全体が引きずられてる感があります。
デザインをぶち壊すエンジニアリング
こう考えるに至ったにはもちろん背景があります。
私が関わったプロジェクトで実際にあったことなのですが、しっかりリサーチ~戦略設計~情報設計~UIデザインまでして、さぁいよいよと他社のベンダーさんにアプリの開発をお願いしたところ、「画面全体のレンダリングが完了するまで(5秒くらい)戻るボタンが押せない」という開発をしてきたところがあります。誤タップの度に5秒待たされるというのはウルトラにストレスフルです。どう考えても、UXデザインがまともに成されていないと評価せざるを得ないものが出来てしまいました。
指摘して直してもらえる範囲だったらいいのですが、ベンダーさんによっては「そんな仕様書もらってないし」となる場合もあるでしょうし、スケジュールが迫ってるとそれがそのまま世に出るケースもあるでしょう。これを「ベンダーの方がおかしいわ」と言うのは簡単ですが、ここでは「プロジェクトとして」UXデザインを担保するプロセスが組まれてなかったこと自体が問題なわけです。
自戒も込めて考え直すと、デザインチーム一同、「UXデザインはデザインまで」みたいに考えちゃってるフシがあったように思います。特定の誰かが、じゃなくて、プロジェクト全体にそのような雰囲気があった。
当たり前の話で、利用者が「触りごこち」を感じるのはシステムとして開発されたデザインに対してであって、静止画としてのデザインではありません。UXデザインという思想を考えた場合、最終工程であるエンジニアリングプロセスを対象にしないと、どうしても議論に隙間ができてくるはずなのです。が、なんか業界的にそこに触れるケースが少ないのがおかしくないかという気がしています。
私の意見
せっかくプロジェクトにUXデザインという視点を持ち込んでも、エンジニアリング領域までその思想を持ち込まないと、最後の最後で「あちゃー」みたいな結果になる場合がある、という話でした。
これは極論ですが
上流工程だけしか見れない人間はUXデザイナーとは呼べない
とすら言えると思います。
よく「エンジニア必見! UI/UXデザインのコツ」みたいなエンジニアから見たUXに関する記事を見ますが、その視点とは逆で、UXデザイナーから見たエンジニアリングもまだ理解が及んでいない領域もたくさんあると思います実際。
こういうリスクをプロジェクトとしてどうやって回避するか、ですが、
- デザイン側が完璧な仕様書を作れというのも現実的では無いので、UXデザインのクオリティの責任保持者(あるいはチーム)が、「ここだけは外さないで」という要求をちゃんと開発者さんに明示するプロセスをちゃんとする
- 開発リーダーに、開発プロセス前からチーム議論に参画してもらって、明示化されないまでも意思共有しておく
あたりかなぁと。
結構書き散らしました。なんかちゃんと整理しきれてない気もしますが、ひとまずUXデザインに関して初めて書いた記事、でした。これからもうちょい書いていこうと思います。
補足
元も子もない議論
そもそもUXデザインって特定の職種(あるいは人)が担保する領域なんでしょうか。
文字通り「人の知覚や反応の設計にコミットする」という意味でUXデザインを解釈すると、WEBサイトとかアプリの領域だとその変数が無数にありすぎて、とてもじゃないですが
私なんぞは、情報設計、UIデザイン、エンジニア…それぞれのプロフェッショナルの技術の結晶が結果的にUXデザインという行為に昇華されるようにも感じてしまいます。
UXデザインを学んだその先にあるモノ | tsublog
この記事では、UX論はデザイナだけの仕事ではなく、チーム全員で取り組んでフィジビリティを担保する、とあります。私もその感覚です。上で挙げたプロジェクトでも、特定の誰かが言い出したことではなく、テストアプリを見た時にチーム全体が言い出したことでした。
これを言い出すと、俺自身の肩書がどーやねんという話になるのですが、まぁおいおい考えます。自分で納得できなかったら肩書変えます。
参考
本稿の趣旨とはほぼ関係ありませんが、UXデザインをいろんな角度から定義したダイアグラムを集めている方がいらっしゃいます。さながらUX図鑑の様相を呈していておもしろいです。
UXについて理解が深まる!ユーザーエクスペリエンス概念図まとめ【再更新版】 | UX INSPIRATION!
もちろん、これらの中には当記事で疑問を呈したエンジニアリング視点を含めて議論されているものもあるようです。
個人的に深掘ってみたい話
ただのメモです。
- サービスデザインとUXデザインってなんかごっちゃになってないか?
- UXデザインの領域になんでプレゼンテーションやファシリテーション(合意形成スキル)が含まれるのかよく分からん
- 知覚や反応の設計をブレイクダウンするとどこまで細分化できる?
- 敢えてUXデザイナーという肩書の領域を定義するなら?
- 本質的な意味でのUXデザインを担保するために必要なプロジェクト体制
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