流行りにのって見てきました。1年前にできたてほやほやの上野のTOHOシネマズ。席の埋まり具合は1/4くらい。
映画を年に1度くらいしか見ない俺にとっても、面白かったです。映画というエンタメフォーマットの新しい形を見させてもらった感があります。
まぁ見た人には言わなくても分かると思いますが、この映画は以下のように
- 前半 : ワンカットのゾンビ映画…なんだけどかなり違和感の残る映像がひたすら流れる
- 中盤 : その映像が作られた背景と、監督の苦労と苦悩
- 後半 : 冒頭のワンカットムービーの撮影の舞台裏
というメタ的な構成になっています。
デザインされた映画
特に自分は、「完璧に設計された」映画だという感想を持ちました。
映画が好きな人には「新しい」と思えるでしょうし、イベントや撮影の仕事をされている人にとっては後半は「あるある!」という膝を打つような楽しみ方ができるだろうし、サイドストーリー的に挟まれる親子愛に泣いてもいいし、いろんな楽しみ方ができるのではと。それだけでなく、それらが全て「笑えるエンタメ」という形で昇華されているので、何というか、「否定しようが無い」読後感を与えているように思いました。
加えて、SNSでネタバレしたら楽しみ方が半減されてしまうこの映画でこの時代に打って出たのは正解であるように思います。これはドラクエ11も同じことが起きていました。
ネタバレ禁止のエンタメ映画 × SNSという時代 が組み合わさると、確かに「詳しく言えないが、おもしろかった」としか言いようがない。じゃあ自分がどうだったかというと…やっぱり、SNS上や仕事仲間に「おもしろかった」という感想を多く見聞きするうちに、「そんなにおもろいなら見てみるか」とノせられたのは間違いないです。
監督にはこうなる事が見えていたのでは、という気がします。勝手な想像ですが。
感情やメッセージを映像表現にピュアに昇華するスキルを持つ人をアーティストと呼ぶのかもしれませんが、上述の意味で、この監督はデザイナー的スキルで映像を作っているように思われます。映画を見る人が、映画館の外でどういう気持ちになるかも設計してるような気がする。考え過ぎですかね。
奇しくも映画中に「俺の作品だ」というセリフが登場しますが、これがアンチテーゼになっていると考えるともうメタ過ぎてよく分からなくなってきます。
涙もあってよかった
またこの映画、エンタメだけに振り切ってないところがより良かったように思います。監督さんを中心にしたサイドストーリーにちょっとだけ涙の要素があった。
- 使い勝手のよい映像監督になってしまったキャリア
- 元女優時代を忘れられない奥さん
- 過去のものになってしまった父と娘の愛情
そういう伏線や感情の回収の手段が天才的だと思いました。ワンカットムービーで不自然だった点 = 実はトラブル回避のためのアドリブだった = 家族が絆を取り戻すための魂の叫びだった、という構造になっている。それが冗長に語られるのでなく、一瞬のシーンだけでスパスパ回収されていくテンポがよかったし。そのテンポの良さがこの映画の一番いいところだと思うんですが、それが功を奏してラストの人間ピラミッドのシーンが「笑いと感動が混じった」どう説明していいのか分からないけど良シーンに仕上がっていたと思います。まさに「なんて説明したらいいか分からない」この映画を象徴するシーンでは。
日本の映画ってやたら暗いテーマのものが多い気がするので、こういうエンターテイメントが増えてもいいのになぁと思います。この映画の監督が三谷幸喜の「ラヂオの時間」に影響を受けたとインタビューで言っていたようなので、この作品も見てみようと思いました。
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