受託屋として「誰も説明できない責任領域にヌルッと入る」のは楽しいぞという話

1年以内

転職までの期間限定で意識高い事でも書いてみようと思っていたのですが、結局1記事しか書いてませんでした。SlackやDropboxで自分がオーナーになっちゃってるやつの引き継ぎとかPCとかスマホの返却処理に、思ったより10倍くらい時間がかかったからです。完全に舐めてました。

そうこうしてるうちに、東京のコロナ感染者数は日々増加中。爆発的感染のシナリオに怯えながら目に飛び込んでくる情報は緊張性を増す一方で、一般市民レベルではとにかく家から出ないのが最善という状況下、さらに自分の場合は転職直前でリモートワークすら必要無いので、引きこもり以外の選択肢がありません。緊張と弛緩のギャップがすごいです。とまれ、定年を迎えるまで二度と味わう事のないだろう引きこもり生活を体験できた事は何かしらの意味を持つような気がします。ただの話のネタにしかならないかもしれませんが。
とにかく、世界中の最前線でこの事態に向き合っている医療従事者にはただ感謝です。

その方々の負担になりたくないので本心では1秒でも外に出たくない…というより出るべきで無いと思っているのですが、今日は退職に係る手続きのために最後の出社をしました。


まさか自分の最終出社の風景がこうなるとは思いませんでしたよ。

楽しい受託屋

いよいよ次の会社のスタートを明日に控え(なんとリモートで)、もう1筆くらいは仕事観の整理をしておきたく思い、「受託も楽しいよね」というテーマで何か書こうと思います。新卒から3社目でも受託マンとして生きる事を選んだし、受託に対する想いは結構あります。

…と思っていたのですが、言いたかった事をすでに書いている方がいらっしゃいました。

受託の面白さとは何か | ネコメシCEOブログ

特にこの部分にすごく共感しました。

この中の人と外の人が同居する感覚が心地よいし、何より楽しい。

この記事の続きを書く意義を見失いかけましたが、以下、頑張って自分語で語り直してみます。

クライアントはその事業のプロで、我々はデジタルのプロという前提で付き合いが始まるわけですが、プロだとしてもクライアントが事業の事を100%説明できるわけではないし、こちらもデジタルにおける魔法の杖を持っているわけでもない。どうしても両者の間に「誰も責任範囲を説明できない」みたいな領域が生まれるわけで、その間にヌルッと入っていくのが病みつきになるほど楽しかったです。

というか、いつからかそれが自然とできるようになってから仕事がむちゃくちゃラクになりました。ここ5年くらい、お金で困った事は全く無いし、全部指名で仕事もらえるし。
クライアントと会話する事そのものが純粋に楽しくなったのもこの頃のような気がします。もちろんクライアントに恵まれたのも大きいです。

逆に、他人の仕事を見てて「もったいないなぁ」と思うのは、自分から一線引いてからそれを死守するタイプです。
責任範囲を明確化するのは当然やるべきなんですが、クライアントが自己認識していないリスクに対しても「ウチの範囲じゃないんで」「クライアント責任なんで」というスタンスを崩さないパターン。これは「風邪っぽいんで診て下さい」と相談してきた患者に対し、検査でガンだと判明しても風邪薬を渡す医者と同じで、あんまりいい事じゃ無い気がします。

それよりも、「風邪薬も用意しとくけど、もし途中で他の症状と分かったら一緒に話して路線変更しましょうね」という関係の方が、お互いにとっていいんじゃないでしょうか。それが「誰も保証できない責任領域にヌルッと入る」の意味でして、自分はこっちの方が性に合ってました。一言でいうと、クライアントも悩んでるんだからこっちも一緒に悩む、という事かもしれません。

なんというか、自分は仕事を人間関係として見ているようです。

なので、上のブログで引用されている

「受託は基本お客さんにいるって言われたらいらんくても付けなあかんし、それいらんて言われたらできひんねんて、そこからやから」

には、果たしてそうとも限らんぜよ?と思う一人です。
相手が相談して来ているのは我々がプロをやっている領域なので、患者自身が見抜けていないリスクを見つけてあげるのは医者の役目では無かろうかと思ったりします。

プロジェクトの回し方

では具体的にそれをどうやってやるんだ、という話ですが。

まず、相談のファーストコンタクトの時点で見えちゃったリスクや相手の間違いは、その場で言ってしまいます。もちろん言い方はとても気をつかいます。
…なはずなんですが、ここ数年は相談をくれる相手との関係値がすでに出来上がってるケースが圧倒的に多かったので、言い方とか置いといてもう全部言っちゃう、みたいなノリで会話していました。「え、なんで?」とか「いや、そもそも」みたいな発言を連発する生意気な小僧です。が、なんか、クライアントも自分のそういうところを期待して相談くれてたフシを感じないでもありません。

その上で、何をどーしても相手と共通認識が作れない場合は、あんまり良くないのかもしれないですが、断る、あるいは他の受託業者さんを紹介する事が多かったです。自分のチームでパフォーマンスできない事が分かってるのに引き受けるという事が、お金稼ぎという意味では良くても、相手にとって不誠実であるという考えがどうしても拭えませんでした。

相談時点でクライアントと会話ができない、という事もあります。代理店の営業が「ハイやります」って言って来ちゃった場合とか、コンペ(ピッチ)とか。
最初はしょうがないなぁと思って受けたりもします。が、プロジェクトをやってく中で、相手の視野を広げたり、何かいろいろ相談できるぞこいつ、みたいなポジションを作っていくと、最初はむちゃくちゃなステータスのプロジェクトでも次第に何とかなるもんでした。

ビジネスパーソンとしての器の大きさは、こういう「クライアントと会話できない」という状況をいかに減らせるか、という所に表れているとも思います。

話が逸れた。

次に、見積です。
「中間領域にヌルッと入る(そろそろこれの略語を決めたい)」のが楽しいとは言え、ボランティアではないのでお金にする必要があります。これを見積という書面上で表現するロジックこそ、クライアントとの会話が必要な部分です。

「ウチのチームが事前に保証できる領域はここ」「あなたが負って欲しい責任領域はここ」というような事をクライアントとちゃんと会話できれば、あとは「どう転ぶかよく分からんけど、こういう事が起こりそう。納品分量はマジ不明」みたいな領域がぼんやりと見えてきます。自分の場合は、そこを「保証はできないけどチームメンバーをそれぞれ10%づつ稼働充てられるようにしておきましょう」とか、「ディレクターロールの人が1人月充てれれば何とかなるでしょう」などのように、稼働で充てて来ました。

なもんで、自分が作る見積はほとんどの場合、準委任っぽいパートと請負っぽいパートがミックスされた状態になりました。

準委任っぽいパートはどうしても理屈で説明し切れないので、まさに「経験がモノを言う」世界な気がします。
過去のプロジェクトでこういう事故があったとか、逆に、過去にやった事が無いからこそ不確定領域がここだと分かる、みたいな経験値をフルで導入します。

こういう風に、自分が保証できる事とできない事をきっちり分けて、「保証できないけどこれくらい協力する余地を作っておきましょう」という所まで会話ができれば、クライアントはだいたい納得してくれましたし、見積で困る事はあんまりありませんでした。

まぁ、こういう見積が通るのも、自分のメインクライアントがどこも財政的に潤ってる企業だったというのが一番大きい気もしますが。正直。そうでない企業だと納得はしてくれてもお金を払えるかというのは微妙…みたいなケースもありそうです。

一旦プロジェクトが走ってしまえば、後は不測の事態に対して柔軟に構えとく、くらいでしょうか。
ここで一線死守スタイルだと「いやそれはクライアント起因なんで」と追い返してクライアントが困るだけなんですが、「マジっすか。それは困りましたね…」から解決策を一緒に考えていくポジションを維持します。と言うとお金とるために戦略的にやってたように見えるかもしれませんが、実際は「そっちの方が仕事が楽しい」というモチベーションだけでやってました。

で、こういう時に「見積で用意していたディレクター稼働を使って解決しましょう」となれば、見積の信憑性が一気に上がるわけです。実際、こういう状況はまぁまぁ発生します。
これは逆に、事前にリスクを見極めてプロジェクトを上手く回すほど収入が多くなる事を意味していて、市場原理に沿っているわけです。

不測の事態にクライアントと一緒に悩めるかどうかで、信頼感って大きく変わるなぁと実感する事は多かったです。

さて、こういうのを続ける明確なメリットがひとつありまして、プロジェクト計画未満、みたいなステータスでクライアントが声をかけてくれるようになります。

プロジェクト設計で8割決まるが信条の私にとってこれは本当に好都合で、期間・予算・スタッフィング・必要納品物をけっこうコントロールできちゃう立場になります。
当たり前ですが、こちとらクライアントへの提供価値を最大化する事がこっちの成功なので、私にとって好都合な事はクライアントにとっても好都合なわけです。というかそうなるように利害を調整するのがプロデューサーロールの役目のはずです。自分はプロデューサーじゃないけど、そういうのが好きでやってました。

という感じで、受託屋って中途半端な領域に自分のポジション置いとくのも結構おもしろいよ、という話でした。
実際に、こういう付き合いをし始めてからクライアント担当者と公私ともに仲良くなるケースがてきめんに増えて、転職するって言ったら飲み会開いてくれる人が結構多くて感動しました。コロナで全部中止になったけど。

次の会社でも、「ヌルッと中間領域に入る」みたいな働き方ができたらなーとは思っています。エージェンシーからコンサルに業態が変わるので、それを許すカルチャーなのかどうか分かりませんけど。

まぁ無理なら無理で、また別の価値観が育つでしょう。たぶん。

まとめ

試用期間を無事パスできるかが怖いです。次の会社、外資だし。

転職の経緯はこちらに書きました。