ジャコ本は3冊読みましたが、それぞれ視点と編集方法が異なります。それぞれがジャコの違う側面に焦点が当てられるようになってておもしろいです。
ジャコとは全然関係ないですが、自分が読んだ安藤忠雄の本はだいたいどれもおんなじこと書いててそれとはえらい違いです。たまたま俺が読んだ本がそうだったのかもしれませんが。
すなわち、ビルミルコウスキーが書いた本はドキュメンタリー。ジャコの良かったところも悪かったところも「等価に」編集されているのが特徴だと思います。で、時系列なもんでどーしても晩年のめちゃくちゃぶりにスポットが当たってしまう。
あまりにスキャンだリーなのでそれに嫌悪感を示す人もいるようですし、噂だけが一人歩きしているとおっしゃる方もいるようですが、ただ俺にはそれが誇張なのか真実なのかを判断する術はありません。
確かなのは、読んだらめちゃくちゃ暗い気分になるということです。
続く松下さんの「魂の言葉」のテーマは、一転してジャコの「ミュージシャンシップ」。
ジャコ本人の語録集で、音楽へのスタンスを語りまくったもの。ミュージシャン、特にジャズベーシストが聴いて「なるほどー」と思う内容が多い本でした。感想書いてます。
シラフな時のジャコのキャラクターが滲み出ていて、1冊目とは逆に読んでると妙にやる気になる本でした。
で、今回の3冊目ですが、著者が2冊目と同じく松下佳男さんということもあってか、やはり「陽の部分」にフォーカスされています。
「魂の言葉」と異なるのは、語り部が他のミュージシャンであること。240ページのほぼ半分は、他のミュージシャンがジャコについて語ったインタビュー集です。これがこの本の最大の特徴だと思います。ピーターアースキンやザヴィヌル、ショーターなどのウェザーリポートでのお馴染なメンバーはもちろん、クラプトンやマイルス、メセニーなどの大御所まで。まぁ、彼らは普段からインタビューとか伝記は見るのでだいたい知ってる内容でした。ジェフベックが出てきたのはちょっとびっくりしたけど。
今回発見があったのは、他のベーシスト陣。ジョンパティトゥッチ、ヴィクターウッテン、マーカスミラー、クリスチャンマクブライド、ウィルリーなど。特にマーカスのジャコに対する敬愛ぶりはなんだか微笑ましいものがありました。
あと、恋人だったらしいジョニミッチェル。
その他には、ボビーコロンビーなど、初期のジャコを知るミュージシャン仲間のインタビュー。
最後のほうに納められている、息子のフェリックス、娘のトレイシーなど家族のインタビューはなかなか感慨深かったです。
ネタバレなのもあれなのであんまり詳しいことは書きませんが、インタビューに共通して言えるのは、「ジャコが遺した音楽的功績で、ジャコを語ろうよ」という姿勢でした。逆に言うと、晩年のブラックな時期のことを面白がって話題にするのはもうええんちゃうか、という考えにも近いかもしれません。そういう意味でミルコウスキーの本へのアンチテーゼな気がしないでもありません。トレイシーのインタビューからはハッキリとそれへの嫌悪感が読み取れました。
もしかしたら松下さんの意図的な編集かもしれませんし、そもそも上記のミュージシャンたちがジャコの晩年を語りたがらなかったのか、詳しくは知りませんが、そういう観点でまとめられた本、ということです。
ジャコがスタジオでどんな立ち振る舞いをしたのか、音楽に対して何を思っていたのか、いかにファンキーでパフォーマンス精神溢れる奴だったか、それをプロのミュージシャン達が終始肯定的に語る様子を一通り読んでみて、amazonで誰かがレビューしているように「ジャコへの愛に溢れた一冊」という読後感がしっくりくる本でした。
あと、見たことない写真が数点掲載されているのは嬉しかったです。
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